- 英文契約書は誰が管理しチェックするの?
- 英文契約書の特徴を理解する
- 契約社会オーストラリアで鍛えられた、契約書読解能力
- 英文契約書を効率よく、素早く理解するコツ
- 英文法のチェックは一番最後に
- 契約締結の際に考慮すべきこと
英文契約書は誰が管理しチェックするの?
普通、事業を営む企業では、法律の専門家の社員で構成される法務部というセクションにて、事業に関する関連法令を把握し、会社が法律遵守しながら事業を営める体制を整えます。
法務部と言われるセクションでは、会社が日々さまざまな取引の中、リスクを最小限に抑えつつ、最大限の利益を得ることができるように、契約書の内容を細かくチェックする機能を担います。
大手企業においては法務部があることが多いと思いますが、法務部を設置することは人件費もかさみますので、中小企業においては、なかなか法務部を組織内に設置するのは難しい場合があります。
外国企業との取引がある場合は、英文にて契約書を締結しなければならず、さまざまな種類の契約書の内容を英語で理解し、相手と条件を交渉し、締結まで持っていかなければならないので、契約締結まで1年以上かかる場合もあります。
法務部が社内にない場合、弁護士に外注する企業もあるかと思いますが、契約締結の度に、ゼロベースで契約締結するまでをぜーんぶ弁護士さんにお願いしていたら、弁護士費用が高額になってしまいます。
ちなみに、わたしが働く日系中小企業では法務部がないので、英文契約書については、わたしが全部目を通し、まずは重要な条項のみ要点をまとめてマネジメントに報告し対応します。
必要があれば、わたしのほうで英文契約書のドラフトを作成し、ドラフトをベースに先方と交渉し、なんとか妥協点をお互い見つけて締結まで持っていきます。
わたしが入社する前に締結した契約書については、必要に応じて読み解き、問題があれば、相手方の当事者に連絡を取り、問題解決に向けて、折衝および示談に持っていきます。
わたしは法律家の専門ではないですが、契約社会のオーストラリアで11年生きてきた経験も役に立ち、10年以上さまざまな企業の英文契約書に携わり、いろんなケースを経験してきたので、ここさえ押さえれば問題ないというポイントがある程度わかります。
10年以上、複数の企業で多くの契約書と向き合ってきた中で、大きなトラブルになったケースもないので、まずは今の進め方で問題はないだろうと思っています。
英文契約書の特徴を理解する
英文契約書と言っても、種類がたくさんあります。
わたしが携わった経験がある英文契約書で、ざっと思いつくだけでも、
〇ライセンス契約
〇秘密保持契約
〇代理店契約
〇サービス契約
〇雇用契約
〇賃貸契約
〇リース契約
〇売買契約
〇試料提供契約
〇保守契約
〇共同研究契約など
こんなところでしょうか。
重要になってくる条項もポイントも契約書の種類によって大きく異なりますので、一概に、ここさえ押さえれば大丈夫!という虎の巻はありません、残念ながら。
まず理解しておきたいことは、英文契約書は日本の契約書と異なり、基本的にボリュームがあります。
多い時で20ページ以上におよぶ場合も。。。
わたしは日本の契約書より、英文契約書のほうが慣れているのですが、オーストラリアから帰国し、日本の契約書(例えば、取引契約書、代理店契約書など)に触れた時に、その枚数の少なさと契約内容の曖昧さにとても驚いたのを覚えています。
日本の契約書を目にしたときに、これじゃ、もめた時に、何ひとつ、明確に訴えられる条項がない=何の役にも立たないただの紙切れにすぎないと思ったものです。
契約書の締結の主な目的は、自身の権利を守り、自身のリスクヘッジを最大限することです。
要するに、相手方当事者ともめた時に、自身が困らないようにするためのツールです。
〇双方の利益と権利の範囲
〇双方の責任範囲
〇トラブルが起きた時の対応
について法的書類で取り決めるのが契約書です。
英文契約書が分厚い理由は、最悪の場合を想定して、考えられるシチュエーションを書面でカバーし、もめた時に「このように取り決めましたよね」と法的に自己主張ができるようにするためです。
お互いの権利と責任範囲を細かく決めておくことで、最悪のシチュエーションに面した際に、お互いの主張が平行線となり長く暗いトンネルに入らないように、スムーズに事を片付けられるようにする目的もあります。
完全にわたしの独断と偏見ですが、日本の契約書の場合は、契約締結の際に、最悪の場合を想定するよりも、末永いお付き合いをするのが前提で、いつまでも良好な関係を維持していきましょうね、という前向きな約束に基づき契約を締結する印象です。
だから、最悪の関係になった場合の対処については、事細かに記載がないのかなと。
契約社会オーストラリアで鍛えられた、契約書読解能力
オーストラリアは契約社会です。
雇用契約ひとつにしても、雇う側の企業も、雇われる側の個人も、雇用契約書の条件を対等な立ち位置で交渉し契約締結しますので、問題があって契約解除するのも、契約条件により遂行されます。
日本では、一度正社員で雇用になると、よっぽど、社員が怠慢や不正を働かない限り、企業側は社員を解雇するのは難しいと聞きますが、オーストラリアでは、雇用契約書上に、解雇の条件を明確に記載する場合が多く、例えば、ポジションクローズにて2週間通知で解雇できることもあります。
わたしもポジションクローズにて解雇された経験があります。
Office Administrator という、要するに総務全般を担当するポジションにて雇用されましたが、会社の方針で「事務は不要」と言い渡され、2週間で解雇という通知を言い渡されましたが、いろいろと背景がありましたので、会社側と交渉し、解雇通知を2週間から4週間に延長してもらうことで、解雇を受け入れたこともあります。
また、賃貸契約においてももめた経験があり、痛い目にあったことがあります。
全ては契約条項で縛られ、一度サインをして契約が法的に成立してしまったら、合意した責任から逃れることはできません。
契約書にサインする時には、契約条項をしっかり読みこみ、自身に不利な点はないか、大きな落とし穴がないか、リスクはないかなどを確認し、自分自身で身を守るということを、常日頃から行ってきましたので、英文契約書を読み込むことは、英文契約書との向き合い方については、鍛えられてきました。
その甲斐もあって、英文契約書を読むのは慣れています。
英文契約書を効率よく、素早く理解するコツ
まずは、その契約書を締結する背景について理解をすることです。
それから、1ページ目のトップからコツコツと読み始めるのではなく、さーっと斜め読みします。
〇まずはさっと大項目だけを見て、契約書の構成を確認する。
〇お金が絡む条項をまずは読む。
〇揉めた時に争点となりそうな条項を読む。
上記を先にやっておくと、重要なポイントが見えてきます。
また、やたら読点(、)が多く、句点(。)まで、何行も続く文章がたくさん出てきます。
その場合、一番重要な主語と述語を見つけます。
その間は、たいていの場合は、「〇の場合も、〇の場合も~」と、いろんな状況を全てカバーしているだけでなので、「〇〇は、〇〇でなければならない。」というシンプルな文章構成になる箇所を見つけます。
その契約書をもとに、今後どんな取引が行われ、将来的に取引を通じて、どのような利益を生む可能性が考えられ、また逆にどんなリスク(損失)を被る可能性があるのかを、具体的にシチュエーションを考えます。
契約を締結する際に考えなければならない一番のことは、
〇自社にとって最大限の利益を生み出すこと
〇自社をリスク(損失)から守ること
です。
背景が理解できると、優先して読むべき条項がわかります。
たとえば、相手方の特許で守られている商材をライセンスインする場合の契約の種類は、ライセンス(実施許諾)契約となり、基本、相手方からドラフトが送られてきます。
優先して読むべきポイントとしては、
〇対象権利の定義
〇付与されるライセンス使用の範囲
〇権利を使った商材の販売可能な地域
〇一時金、マイルストーンの額と支払タイミング
〇ロイヤリティ計算方法と支払%
〇報告、支払サイクル
〇イニシャル契約期間と更新条件、契約解除の事前通知
〇先方の権利が第三者の権利に抵触していた場合の責任範囲
〇損害賠償の責任範囲
⇒自社の過失による損害が発生する場合
⇒相手の過失による損が発生する場合
〇準拠法と仲裁法の場所
ざっくりと、こんなところでしょうか。
また、契約書上の言葉の定義については、よく理解しておく必要があります。
守秘義務、不可抗力、分離/可分性、譲渡、放棄などの雑則なども、つらつらと長い文章で書いてありますが、基本的に一般的な常識的な条項であることが多いため、さーっと読んでおき、いざ締結間際で最終チェックの時に、しっかり読むようにしています。
ライセンス契約において、一番重要と考えられるのは、RIGHTやGRANT、PAYMENT, ROYALTY、MILESTONE、Liabilityというような条項タイトルのところです。
要するに、お金が絡むところ、もめた時に争点となるような決め事の条項です。
実際に、契約書上で決めたことをベースに悩みそうなところ、問題になりそうなところはどこか、という視点にて契約書を読むと、要点を掴みやすいです。
時々、やたら英文法を細かくチェックし、a, the, 三人称のsなどを気にする人がいますが、それは正直どうでも良くて、まずは交渉の際に争点となる点はどの部分か、相手の交渉条件、譲れるところ、譲れないところなど、交渉するポイントや、文章の意味や目的に目を向けなければなりません。
英文法のチェックは一番最後に
最終的な文法チェックは、必要であればプロにproof readingをお願いすれば良いことだし、正直なところ、たとえ文法的な誤りがあったとしても、その点について契約上、相手方ともめる争点になることはまずないと思います。
どうでも良い英文法のチェックに時間を割くよりも、まずは、取引しようとしている相手と、ドラフトの契約ベースに契約締結ができるか否かの重要合意事項を協議し、相手と合意できるように持っていけるかどうか、それを見極める必要があります。
逆に、重要な条項の文章には、一字一句こだわる必要がありますし、文法的な正確性よりも、相手とコンセンサスを図ることができる文章であること、そして、その重要な条項の言葉の定義を明確にしておく必要があります。
重要なポイントで合意できる可能性が極めて低いと早期で判断できれば、余計な英文チェックに時間を割く必要がありません。
重要なところさえ、まずは抑えて理解できれば、残り大部分の英文契約条項を読まなくて済みます。
契約書は数をこなせば、さ~っとまずは斜め読みし、重要なところだけピッピっと蛍光ペンを引き、取引条件をパパっと把握することができるようになります。
契約締結の際に考慮すべきこと
大手グローバル企業相手の場合は、まず相手が出してくる契約書が優先され、大幅な契約書の形式変更はできないケースがほとんどであり、中小企業の場合は、それを受け入れないと、取引できない場合が多い(契約締結できない)と考えたほうが良いと思います。
組織は大きくなればなるほど、組織の規則に縛られるため融通が利かなくなります。
大手グローバル企業同士の契約には、おそらくお互い決まった契約フォーマットがあるでしょうし、なかなか譲歩ができない場合が多いでしょうし、ものすごく時間がかかることが想定されます。
わたしが属する企業は中小企業なので、大手グローバル企業と取引を前提に契約締結が必要な場合は、まずはその取引の先にある利益の価値を社内で秤にかけ、契約締結作業に苦労してでも取引する価値があると思えば、可能な限り相手の契約書の雛形(定型フォーマット)に合わせて譲歩し、契約締結が可能な状態に持っていく努力をします。
ただし、相手方の契約条件によっては、とても当方で受け入れることができない、アンフェアな契約内容の場合は、早い段階で契約締結のお断りする決断も必要です。
自社のポジショニングにより、契約締結の際には、いろいろと考えなければならないですね。
皆さんも、契約に縛られ痛い目に遭わないように、お気をつけくださいね^^
かといって、契約書の読込みや、交渉時の相手とのピンポン(いったり、きたり)の作業に、延々と時間を取られるのもお気を付けくださいね♪
byちびまる